若い頃、飲み仲間とよく健さんの物真似をしていたのが懐かしい。
『幸せの黄色いハンカチ』の有名なシーン。
刑務所を出所したての男が娑婆に出て初めて入った食堂でカツ丼と醤油ラーメンを注文する。どれも刑務所では味わえなかった取り合わせということだ。そして刑務所では絶対に飲めなかったビールを追加注文するのだ。
そのビールの最初の一杯を両手で震えるように持ったグラスで飲み干したときの無言の演技。
それを飲み屋やスナックで真似するのだ(笑)。
他にも『南極物語』で、犬を置き去りにした事を、樺太犬の飼い主の少女(荻野目慶子)に詰問され「クサリに繫がれたまま・・・・・」と言って立ち尽くす場面。
これもよくやった。
高倉健のデビュー当時の作品は知らない。『飢餓海峡』の若い刑事や『宮本武蔵』の佐々木小次郎役は観ているが,私が知っているのは『網走番外地』や『昭和残侠伝』以降の健さんである。
この頃から、泣かぬ笑わぬ寡黙な男、健さん像が定着していった。
思いつくまま書く。
『遙かなる山の呼び声』では、その泣かない健さんが、ラストシーンでハンカチを握りしめて泣く場面がある。男泣きの極みである。どこかの号泣議員には恥を知れ、と云いたい(笑)。
映画『居酒屋兆治』の主題歌「時代遅れの酒場」作詞作曲:加藤登紀子、唄:高倉健で歌い出しの前に語りが入る。
「人が心に思うことは誰も止めることはできない」
高倉健がこう語ると、この人も胸の中には言葉に出来ない複雑な想いが詰まっているのだなと、しみじみさせられる。
「巧言令色鮮し仁」(口先が巧みで愛想をふりまく者に誠実な人間は少ない)と孔子が残したが、周りの人が語る高倉健にまつわるさまざまなエピソードを聞けば聞くほど、私生活でも巧言令色からは一番遠いところにあった人で真っ直ぐで誠実な人柄だったのだろう。
心からご冥福をお祈りいたします。 合掌
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